2024年10月毒劇物改正!「有機シアン化合物」が包括登録制に

毒劇物規制
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こんにちは、ジンです。

毒劇物を販売の目的で製造または輸入するには、事前に「毒物劇物製造業」または「毒物劇物輸入業」の登録を受けなければなりません。これらの登録を受ける際には、製造・輸入する毒劇物の名称や含量等を記載して申請をします。

また、登録は毒劇物の品目について行うこととされており、製造または輸入する品目を追加する場合は、事前に都道府県知事による登録の変更を受ける必要があります。

今回の改正では、これまで個別に記載が必要であった有機シアン化合物の化学名について、包括的に「有機シアン化合物」として記載しなければならなくなりました。また、「有機シアン化合物」と記載した場合には、5年ごとの業登録更新時に製造(輸入)実績を届け出るという運用ルールに変更になりました。

今回の改正について詳細を調べましたので、備忘録的にまとめたいと思います。
なお、「毒物劇物販売業」や有機シアン化合物を取り扱っていない「毒物劇物製造業」「毒物劇物輸入業」については、今回の改正の影響はありませんのでご安心ください。

改正の概要

今回の改正による変更点としては、次の2つが挙げられます。

  1. 有機シアン化合物の登録・更新・変更時個別の化学名ではなく「有機シアン化合物」と記載
  2. 有機シアン化合物の登録の更新時製造(輸入)実績を提出
図1. 令和6年厚生労働省令第90号による改正の概要

 

改正の詳細

それでは、詳細を確認していきましょう。

  • 改正①:個別の化学名ではなく「有機シアン化合物」と包括記載
  • 改正②:業登録更新の際に、更新前までの製造(輸入)実績を提出

 

改正①:個別の化学名ではなく「有機シアン化合物」と包括記載

改正①については、次の3つの様式が変更されています。

  • 新規登録申請時に使用される「登録申請書(省令 別記第1号様式)」
  • 登録更新申請時に使用される「登録更新申請書(省令 別記第4号様式)」
  • 登録変更申請時に使用される「登録変更申請書(省令 別記第10号様式)」

3つの様式において、まったく同じ改正がされていますので、別記第1号様式を例にご説明します。

具体的な改正箇所は、様式中の(注意)の欄です。
下図2のように、「有機シアン化合物」の記載方法について追記されています。

図2. 別記第1号様式(登録申請書)の改正箇所

 

これまで、「毒物劇物製造業」や「毒物劇物輸入業」の新規登録・更新・変更をする際には、申請書の「製造(輸入)品目」の欄に、有機シアン化合物の個別の化学名の記載が必要とされていました。(下図3を参照)

図3. 改正前後の有機化合物の記載例の比較

例えば、有機シアン化合物の中で最も簡単な構造を持つ「アセトニトリル」を製造する場合には、「製造(輸入)品目」の欄には、「アセトニトリル」と個別の化学名を明確に記載しなければなりませんでした。

また、複数の有機シアン化合物について登録を受ける際には、品目ごとに個別の化学名(アクリルニトリル、アセトニトリル、プロピオニトリル、…)をすべて記載しなければなりませんでした。

 

省令改正により、2024年10月1日からは、有機シアン化合物の登録においては個別の化学名の記載は不要となり、一律「有機シアン化合物」と包括記載することになりました。

新規登録時、5年ごとの更新時、変更登録時の申請書で同様の改正がされています。

先輩
先輩

たくさんの品目を取り扱う企業にとっては、だいぶラクになるねぇ。

ジン
ジン

そうですね。改正②のほうも確認してみましょうか。

改正②:業登録更新の際に、更新前までの製造(輸入)実績を提出

2024年10月1日からは、毒劇物製造業や輸入業の登録・更新・変更時において、有機シアン化合物の個別の化学名の記載は不要となり、一律「有機シアン化合物」と包括記載することになりました。

ラクになったねぇ~と喜んでいたら、更新申請書の(注意)欄にもう一つ追加された記載がありました。下図4をご覧ください。

図4. 別記第4号様式(更新申請書)の改正箇所

上図4は、5年ごとの登録更新時に使用する更新申請書の様式の改正箇所です。

改正で追加された(2)の記載は、改正①でご説明した通り「有機シアン化合物」の包括記載についてのものになっています。もう一つ追加された(6)の記載をご覧ください。

改正後の更新申請書(注意)(6)

有機シアン化合物及びこれを含有する製剤についての登録の更新を行う場合は、当該登録の更新前までに製造(輸入)した実績のある有機シアン化合物の品目(化学名)の全てを別添として提出すること。

記載の通りですね。「当該登録の更新前までに製造(輸入)した実績のある有機シアン化合物の品目(化学名)の全て」を更新申請時に提出する必要があります。

製造(輸入)数量までは求められていないため、単純に製造実績のある化学品の化学名(CAS RNは任意)を羅列していけばOKです。

  • アセトニトリル
  • アクリルニトリル
  • プロピオニトリル

 

改正内容について、現時点で分かっていることは以上です。

2024年10月1日の施行前までに、詳細な運用について通知が発出されるかと思いますので、詳細が分かりましたら本ページを更新したいと思います。

【2024.09.20発出】施行通知の内容

2024年9月20日付けで、本改正の詳細な運用について施行通知が発出されました。

2024.09.20発出

毒物及び劇物取締法施行規則の一部を改正する省令の施行について
(令和6年9月20日付け医薬発0920第12号厚生労働省医薬局長通知)

施行通知の内容について、特に大事なポイントを5つ抜き出しました。

  1. 「製造(輸入)実績品目リスト」の参考様式が示された
  2. 個別化学名から「有機シアン化合物」への変更のみを目的をした変更登録申請は不要
  3. 有機シアン化合物を輸入する場合に必要な対応
  4. 今後は個別化学名を記載して申請してはいけない
  5. 個別化学名から「有機シアン化合物」への変更は業登録手続きについてのみの改正

「製造(輸入)実績品目リスト」の参考様式が示された

更新申請書提出時には「当該登録の更新前までに製造(輸入)した実績のある有機シアン化合物の品目(化学名)の全て」を提出する必要があります。

提出様式は特段定められていないため形式は自由ですが、施行通知中の別紙「有機シアン化合物 製造(輸入)実績品目リスト」を参考として使用して差し支えないこととされており、リストの作成に当たってはこれを参考にすればよさそうです。

↑↑施行通知の別紙「有機シアン化合物 製造(輸入)実績品目リスト」をExcel形式にしてみましたので、よろしければご利用ください。

また、「有機シアン化合物 製造(輸入)実績品目リスト」は、「5年に1度提出して、ハイ終わり。」というわけにはいかないようです。

事業所での事故発生時や立入検査があった場合に「有機シアン化合物 製造(輸入)実績品目リスト」の提出を求めることがあるため、登録更新資料作成時だけでなく日頃から必要に応じてリストの更新を行うこと、とされています。

個別化学名から「有機シアン化合物」への変更のみを目的とした変更登録申請は不要

これまで、個別化学名を用いて劇物に該当する有機シアン化合物の登録をしている場合は、施行日(2024年10月1日)以降、個別化学名から「有機シアン化合物」への変更のみを目的をした変更登録申請を行うことなく、同品目の製造(輸入)が可能です。

例えば、これまでは、下図3の左側(改正前)のように個別化学名で登録されていたかと思いますが、施行日に併せて右側(改正後)のように記載整備のための変更登録申請をする必要はありません。有機シアン化合物以外の品目の登録変更がある場合や次回の5年ごとの登録更新時に、併せて記載整備をすればOKです。

図3. 改正前後の有機化合物の記載例の比較(再掲)

また、少なくとも1品目の有機シアン化合物を製造(輸入)の登録をしている場合は、他の有機シアン化合物についても、変更登録申請を行うことなく、製造(輸入)が可能です。

上図3の左側(改正前)の例では、「アクリルニトリル」「アセトニトリル」「プロピオニトリル」の3つの品目のみしか登録されていませんが、施行日以降は、この登録のままでも「有機シアン化合物」として登録を受けたものとみなされ、3つの品目だけでなく、その他の有機シアン化合物についても製造(輸入)できるようになります。

有機シアン化合物を輸入する場合に必要な対応

業として毒劇物を輸入する場合、通関時には「毒劇物輸入監視協力方依頼について」(令和2年8月31日付け 薬生発0831第24号 厚生労働省医薬・生活衛生局長通知)に基づいて、毒物劇物輸入業登録票の写し(登録品目書も添付)を提出しなければなりません。

このとき、毒物劇物輸入業登録票(登録品目書)に記載された品名と輸入しようとする貨物と一致していることなどが税関で確認され、一致することが確認された場合にのみ輸入することができます。

今回の改正により、毒物劇物輸入業登録票(登録品目書)に記載されている個別化学名(アクリルニトリルなど)が、順次「有機シアン化合物」に記載整備されていくことになるため、登録証の「有機シアン化合物」とinvoiceの「アクリルニトリル」で品目名が一致しなくなるという事態が生じてしまいます。

このような品名と貨物の不一致を防ぐため、劇物に該当する有機シアン化合物を輸入する場合、次の対応が必要とされました。

  • 仕入書(invoice)等に、類別が「有機シアン化合物」である旨を記載すること
  • 貨物の名称と毒物劇物輸入業登録票(登録品目書)の品目名を一致させること

1つ目は、毒物劇物輸入業登録票(登録品目書)の個別化学名が「有機シアン化合物」と記載整備された後に重要になる対応です。仕入書(invoice)に「有機シアン化合物」である旨を記載することで、税関では品名と貨物の両方で「有機シアン化合物」の記載を確認でき、一致させることができます。

2つ目は、毒物劇物輸入業登録票(登録品目書)の個別化学名が「有機シアン化合物」と記載整備されるまでの間に重要になる対応です。貨物の名称と毒物劇物輸入業登録票(写)の品目名を一致させるために次の対応をしなければなりません。

  • 「化学名」を記載した毒物劇物輸入業登録票(写)を提出する際には仕入書(invoice)等にも「化学名」を併せて記載すること
  • 施行前の時点で登録票の類別番号に「令2-32」の品目が登録されており、かつ、同一類別番号で異なる品目を輸入する際には、仕入書(invoice)等に「有機シアン化合物」と類別を記載すること
図5. 有機シアン化合物を輸入する場合に必要な対応

複雑なルールになっていますが、要は、毒物劇物輸入業登録票(登録品目書)に記載された名前と、貨物や仕入書(invoice)に記載された名前が一致していること(一致していることを税関で確認できること)が重要です。

今後は個別化学名を記載して申請してはいけない

改正前は、登録・登録更新・登録変更の申請書に、有機シアン化合物の個別化学名(アセトニトリルやプロピオニトリルなど)を記載しなければなりませんでしたが、2024年10月1日以降は「有機シアン化合物」と包括して記載することとなりました。

これらは、個別化学名記載か「有機シアン化合物」記載かのどちらかを企業の選択で選べるというルールではなく、すべて「有機シアン化合物」と記載しなければならないというルールです。

改正後は、「アセトニトリル」などと個別化学名と記載して申請すれば、修正を促されることになります。「製造実績を提出するのが面倒だからうちは従来通り個別化学名記載がいい」というようなわがままは受け入れられませんのでご注意ください。

個別化学名から「有機シアン化合物」への変更は業登録手続きについてのみの改正

上述のように、有機シアン化合物については、個別化学名の記載から「有機シアン化合物」の記載へと変更されたわけではありますが、今回の改正はあくまでも業登録手続についてのものに限られます。

毒劇物を取り扱う上でのルールはたくさんありますが、業登録手続に関係のないルールでは、依然として個別化学名の記載が求められていますのでご注意ください。

図6. 「有機シアン化合物」の包括記載は、業登録・更新・変更時のみ

2024年9月20日付けの施行通知については、以上になります。

改正の経緯

最後に、少しだけ改正の経緯についてまとめておきたいと思います。

2023年6月16日に「規制改革実施計画」が閣議決定され、その中で「生産性向上に企業が取り組みやすい環境整備のための毒物及び劇物の製造登録の合理化」についての計画が示されました。

規制改革の内容

<No.15 生産性向上に企業が取り組みやすい環境整備のための毒物及び劇物の製造登録の合理化>

厚生労働省は、毒物及び劇物取締法(昭和25 年法律第 303 号)が求める、毒物又は劇物に指定した物質を販売又は授与の目的で製造する場合に事業者が当該事業者を管轄する都道府県知事に行う品目の登録に関し、包括的に毒物又は劇物に指定している有機シアン化合物等について、実際の登録事務を行っている自治体や、関連する企業・業界団体へのヒアリング等の実態調査を行うとともに、まずは有機シアン化合物の適切な管理の観点から、品目登録の合理化方策を令和5年度早期に検討を開始し、結論を得次第速やかに措置する

これを受けて厚生労働省では検討を開始。検討の結果として、省令改正案が示されパブリックコメント(2024年3月4日~4月2日)が実施されました。

2024年5月29日、厚生労働省はパブリックコメントに対する回答を示すとともに、「毒物及び劇物取締法施行規則の一部を改正する省令(令和6年厚生労働省令第90号)」を発出しました。

 

まとめ

以上、毒物・劇物に該当する「有機シアン化合物」を、製造・輸入している方々に関係する改正についてご紹介しました。

今回の改正では、2024年10月1日から次の2点が改正されています。

  • 改正①:個別の化学名ではなく「有機シアン化合物」と包括記載
  • 改正②:業登録更新の際に、更新前までの製造(輸入)実績を提出

改正により、「製造(輸入)前に個別化学名を登録」という運用から、「製造(輸入)後に個別化学名を報告」という運用ルール変わりました。つまり、個別化学名のリストを提出するタイミングが変わったということですので、仕事量としては改正前とさほど変わりません。

それよりも、「有機シアン化合物」の登録が包括的になることで、有機シアン化合物の個別の化学名を追加・削除するために「登録変更申請」をする必要がなくなり、たくさんの「有機シアン化合物」品目を抱えている企業にとっては、とてもメリットのある改正であると考えます。

 

また、2024年9月20日付けで施行通知が発出され、実際の詳細な運用方法について示されています。

ルールをよく理解し、法令遵守に努めたいと思います。

 

参考法令・通知

 

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