体外診断用医薬品には、最低限満たさなければならない基準があります。
この基準は一般に「基本要件基準」と呼ばれ、
基準を満たしていない体外診断用医薬品は、当然に販売や授与をすることができず、さらには販売や授与をするための製造、輸入、貯蔵、陳列も禁止されています。
本ページでは体外診断用医薬品の基本要件基準について法令を確認しながらご紹介します。
- 基本要件基準って何?
- 第42条第1項の基準との違いは?
- 基本要件基準はどの場面で利用される?
- もし基準に適合しない製品を販売してしまったら(罰則)
という疑問をお持ちの方にオススメの記事です。
医薬品医療機器等法の条文
体外診断用医薬品の基本要件基準については、
医薬品医療機器等法の<第41条第3項>に記載されています。
まずは法律の条文を確認してみましょう。
<第41条第3項>
厚生労働大臣は、医療機器、再生医療等製品又は体外診断用医薬品の性状、品質及び性能の適正を図るため、薬事審議会の意見を聴いて、必要な基準を設けることができる。
令和5年法律第36号による改正後の医薬品医療機器等法(2024年4月1日施行)
それほど難しくない条文ですが、あえて要約すると次のような感じでしょうか。
厚生労働大臣は、体外診断用医薬品が最低限満たすべき基準を設定することができる。
基準設定時には、薬事審議会の意見を聴くこと。
ここで「性状、品質及び性能の適正を図るため」を「最低限」と読み替えてみたのは、第42条第1項の基準との違いを明確にするためです。
どういうことでしょうか?
第42条第1項の基準との違い
第42条第1項の基準とは、「保健衛生上特別の注意を要する医薬品の基準」のことです。
「体外診断用医薬品を除く」という記載はありませんので、ここでいう「医薬品」には体外診断用医薬品も含まれます。
つまり、第42条第1項では、「保健衛生上特別の注意を要する体外診断用医薬品の基準」について規定されていると解釈することができます。
法律全体で見てみると、
第41条第3項では、全ての体外診断用医薬品について最低限満たすべき基準を設定し、
その中でも保健衛生上特別の注意を要する体外診断用医薬品については、さらに必要な基準を設定(第42条第1項)する、
という構造になっています。
図でみるとこんな感じになります。
なんとなくイメージがわいたでしょうか?
本ページでは、第42条第1項の基準との兼ね合いを考慮して、第41条第3項の基準については「最低限満たすべき基準」と表現しています。
基本要件基準とは?
それでは、いよいよ本題に入ります。
基本要件基準とは何なのでしょうか?
法律に則った模範解答は、
体外診断用医薬品の性状、品質及び性能の適正を図るため、厚生労働大臣が、薬事審議会の意見を聴いて設ける基準
ですが、もっと簡単に、
全ての体外診断用医薬品が満たすべき最低限の基準
と覚えてもOKです。
基本要件基準は、厚生労働省の告示にて規定されています。
「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律第41条第3項の規定により厚生労働大臣が定める体外診断用医薬品の基準(平成17年厚生労働省告示第126号)」
全部を解説するのはつらいので、またの機会にしようと思いますが、
- 危険を管理(リスクマネジメント)しなければならない
- 使用者の安全を確保できるような設計・製造をしなければならない
- 添付文書(電子添文)によって必要な情報を提供しなければならない
というような、体外診断用医薬品としての基本的なことが書かれています。
一部、滅菌体外診断用医薬品や放射性体外診断用医薬品のみに適用される要件もありますが、基本的には全ての体外診断用医薬品は、基本要件基準を満たさなければなりません。
基本要件基準を満たしている(適合している)かどうかは、自社で確認します。
どんな場面で必要になるか
基本要件基準への適合性の確認は、どのような場面で必要になるのでしょうか?
医薬品医療機器等法上では、
基本要件基準に適合しない体外診断用医薬品を販売・授与したり、または販売・授与をするために製造・輸入・貯蔵・陳列することは禁止されています。
ですので法令遵守という意味では、販売・授与・製造・輸入・貯蔵・陳列する前に、基本要件基準への適合性を確認するのが確実なのでしょう。
とはいうものの、販売するたびに毎回確認していたのでは仕事が回りませんので、少なくとも
- 製造販売承認申請
- 製造販売認証申請
- 製造販売届出
- 既存の体外診断用医薬品の仕様変更
- 基本要件基準の改正
の際には、確認しておいた方がよいでしょう。
なお上記のうち、「1.製造販売承認申請」と「2.製造販売認証申請」の際の確認については、
適合性の確認をした証拠(資料)を当局に対して提出しなければなりません。
(承認申請書に添付すべき資料等)
医薬品医療機器等法施行規則第114条の19第1項第2号ニ
法第41条第3項に規定する基準への適合性に関する資料
(認証の申請)
医薬品医療機器等法施行規則第115条第2項第2号
法第41条第3項又は法第42条第1項若しくは第2項の規定により基準が設けられている場合にあつては、当該基準への適合性に関する資料
基本要件基準への適合性に関する資料を提出する際には「基本要件基準適合性チェックリスト」というものを利用することができます。
基本要件基準不適合品の罰則
もしも、基本要件基準に適合しない体外診断用医薬品を販売してしまった場合、どのような罰則があるのでしょうか?
罰則に関する規定は、医薬品医療機器等法の第18章に記載されています。
基本要件基準に適合しない体外診断用医薬品の販売については、次の罰則が適用されます。
3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する
基本要件基準への適合性については、
承認申請や認証申請の際には上述の通り、基本要件基準への適合性に関する資料を提出しますので、基本的には心配ないかと思います。
(適合性確認していることを第三者から確認されるため、適合性確認を忘れることは、まずあり得ません。)
しかしながら、
- 製造販売届出
- 既存の体外診断用医薬品の仕様変更
- 基本要件基準の改正
の際には、適合性確認の実施の有無を確認してくれる第三者的な存在がいませんので、失念に注意したいところです。
筆者の経験上、特に忘れがちなのが仕様変更をするときです。
仕様変更の際にはバリデーション(検証)を実施するかと思いますので、その手順に基本要件基準への適合性の確認も含めておくと実施忘れはなくなるのかなと思います。
※適合性の確認をしなさいとは法令中のどこにも書いていません。
※基本要件基準に適合していない製品の製造・販売はアウトですよ、ということです。
基準に適合しない体外診断用医薬品をうっかり販売してしまわないよう気を付けたいですね。
まとめ
本ページでは体外診断用医薬品の基本要件基準についてご紹介しました。
基本要件基準に適合していない製品を販売した場合には罰則も存在します。
改正後の基本要件基準が2021年8月1日に施行されましたので、この機会に一度、自社の体外診断用医薬品について適合性確認をしてみてもよいかもしれません。
(ちなみに今回の改正による変更点は、改正医薬品医療機器等法で新しく出てきた「注意事項等情報」についての記載整備のみですので、改正による大きな変更はありません。)
以上です!ありがとうございました!
コメント
とても分かりやすくまとめられていて、薬事ビギナーにとってとても有益な記事でした。条文ひとつひとつの解釈も難しいので、ぜひ、全体の解説をしていただけると幸いです。ご検討よろしくお願いいたします。
これからも応援しています!!!
コメントありがとうございます!
年末年始..年度末..夏休み..と言い訳を繰り返し、本記事公開から1年半も経過してしまいました。
そろそろ続編を書かなければなりませんね…
筆者自身もまだまだ修行中ですがこれからも頑張っていきますのでよろしくお願いします(^▽^)/
貴職のサイトであれば見つかるかなと思い読ませていただきましたが、ヒットする内容がありませんでしたので質問させてください。
体外診断用医薬品として承認された商品を販売先を限定して、例えばある検査センターのみ、ある医療機関のみに販売するのは薬機法等に抵触するでしょうか?
医療機関等から販売を求められた場合、応じる義務はあるでしょうか?
こんにちは!コメントありがとうございます。サイトの情報不足でご不便をおかけしてすみません。
大変恐縮ですが、販売規制については明るくなく、筆者個人の見解としてお楽しみください。
さっそくご質問の件ですが、薬機法においては販売先の制限に関わる規定は設けられていませんので、特に問題ないと考えます。
問題があるとすれば、独占禁止法でしょうか。貴社がメーカー(製造販売業許可)であれば、ユーザーに販売する際には卸さん(医薬品販売業許可)を通さなければなりません。メーカーと卸さんが別会社である場合には、卸さんが特定のユーザーのみにしか販売できないように、メーカーが卸さんの取引を管理(制限)することになりますので、独占禁止法(不当な取引の制限)に抵触するおそれがあります。
なお、メーカーが卸を併せ営んでいる場合には、この限りではありません。
また、製造販売承認を取得するということは、その先に保険適用を見越していると思います。保険適用された体外診断用医薬品については安定供給が義務付けられておりますので、ユーザーを限定することによって、医療を必要とされる患者さんへの適正な医療の提供が妨げられてしまうのであれば、それは当然認められるものではないと考えます。
ご不明な点がございましたら、行政の相談窓口がありますのでご活用ください。ご参考になれば幸いです。
・独占禁止法相談(公正取引委員会)
・医薬品販売に関する相談(都道府県薬務主管課)